遮光 / 中村文則
恋人を失い、完全に内側に閉じこもることを選択した男の話。遮光というタイトルは本当に秀逸だと思います。
外側からの光を完全に遮断し、隙間から見える現実社会と少しだけ触れ合う。夢のような実感のない日常がただ過ぎていく。
彼の居場所は遮光された内側なんですよね。恋人がいない外側には一切価値はない。
人は一人では生きられません。いろいろな形で外の世界が彼に干渉をしてきます。彼が立ち直るためには必要な干渉なのですが、暴力や暴言でそれらすべてを拒絶してしまいます。
他人を拒絶する姿はなんだかこっちまで悲しくなるくらい。
彼が再び元の生活を送るというエンディングはないだろうと思っていましたが、やはりといいますか、あのラストは必然であったといえます。
火葬場では個人の遺骨を食べてしまう行為が実際にあるらしく、体内に入れて永久に自分のものにしてしまいたいという欲求は人間の根底にあるのでしょう。
小瓶を包んでいたビニール。私はとてもチープなビニールを想像してしまいました。安いゴミ袋に使われているような薄っぺらくてすぐにしわしわになるアレです。
彼にとって小瓶と一緒にいることは特別ではなく、自分の日常なんだと思いたかったのではないでしょうか。たとえば朝起きたらとりあえずテレビをつけるとか、靴下は右足から履くとかそんな程度です。
150ページほどですが、久しぶりに著者の想像力をたっぷりと味わうことができた1冊でした。この人の作品は他にもあるみたいです。ちょっと挑戦してみようかな。