藻屑蟹 /
純也の豹変に驚き、さあこれから物語の本番かと思いきやあっという間に物語が終わってしまいました。
あれ?こんな中途半場で終わりなの?と思い、モヤモヤしたのですが、なるほど、これから搾取されるのは純也になるわけですね。
主人公は善人という前提で読んでしまいましたが、思い起こしてみると、善人なんて描写まったくないですね。
さらに、作品中に何度かでてくる彼の心の叫び。人間の心の中はみんなそんなものなのかもしれませんが、フラストレーションが限界に達したのでしょう。彼は実際に行動を起こします。
老人を入れるための穴を淡々と掘り、自分が入って「何も感じなかった」と描写されるのは薄気味悪さすら感じてしまいました。
ラストでは失禁している純也を冷静に見つめ、老人の様子を何の感情もなく観察している。
祖で触れ合うも多少の縁。
短い時間とはいえ、一緒に酒を飲み、情けをかけてもらった人間があれほど悲惨な状態になっているというのに。
金に目がくらんだ男が、淡々と「処理」している感じがいいですね。
もう一つこの作品で気になったのが、原発関係の問題です。
これはフィクションではなくある程度事実を述べているのではないでしょうか。
そんな利権に群がる蟹ということで、このタイトルにしたのでしょう。
と、私はこの男は悪として読んだのですが、実際のところはどうなんでしょうか。
静かに老人を葬りたかった。手紙を燃やしてすべてなかったことにしたかった。そんな風に考えられそうな気もします。
こういう感じで終わるといろいろと続きを考えたくなりますね。
さらっと読めた1冊でしたが、内容は濃かったと思います。
オススメです。